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2009年03月04日

金無垢の月


昔 いつか来たような
語る言葉も同じような
丘に残る 萩の花かげを
自らの懊悩(おうのう)に耐え得で
自らを責め
自らを滅するに似て 心なお
何を憧る 何に憧る
灰色にてはあれど 古き信念に
生きてあれば悲し
風に揺れよ 吾亦紅(われもこう)
吾も亦 黄昏に滲む紅
幸の意義を得知らず
求むるも亦 あて知らず
唯 心のみ楽しければ
歩みては憩う
立石山
遥か君の肩低く
眉よりも細い
金無垢の月 金無垢の月

(1946年、立石山にて)
  

Posted by 松田まゆみ at 14:17Comments(0)

2009年03月05日

夜道


歌は星に流れて
路を照らした
「今夜は暖かいね」
「八月だものね」
「森が茂って 怖いんだろう」
「手をお貸し」
「何て冷たい手だ」
「お馬鹿さん」
「それは 月見草だ」
「さあ 肩を組もう」
「月(ディアーナ)?」
「月(ディアーナ)なんか出やしないさ」
「でも……そうね」

(1946年8月21日)
  

Posted by 松田まゆみ at 12:30Comments(0)

2009年03月06日

友情

  ―松虫草と吾亦紅に寄す―

強く 美しく 清き友情は
高原の花と花とに結ばれ
ある夜 月の光に
いたいたしく濡れた
二つの花の憧憬(しょうけい)は
山頂に絶えて 星となった
その遥けくも 清き光
友情よ
かくて永遠に澄みてあれ
二つの花 萎ゆるも

(1946年9月10日、霧ヶ峰にて)
  

Posted by 松田まゆみ at 12:42Comments(0)

2009年03月07日


霧が流れる
何か ぶつくさつぶやきながら
からまつの間を飛び去る
霧は谷から生まれた
ニッコウキスゲは星だったが
今は光り薄れ
 松虫草 松虫草
その 藤色の漂いに
「何を考える私達」

霧が流れる とめどなく
霧が流れる 草の実に
草の実こぼれて白き
君が手に
この原に 草の実の
強さ 醜さ
 松虫草 松虫草
かくも 青ざめて 冷たく
「何を考える私達」

(1946年秋)
  

Posted by 松田まゆみ at 13:04Comments(0)

2009年03月08日

月の高原にて


月に濡れた女性(ひと)は
花を摘み
  花に埋もれ
高原の夜を歩む
夢ほのぼのと
何時しか君は「花の精」

白き手に
青ざめし藤色の
花のかぎろい
君が頬の 清き微笑み
月影のこぼれて散りて

花ならば君 静かに居ませ
人なれば君 我と語らん
アルテーミス
汝は冷たき純潔の光
汝は愛だに知らぬ女神
この原に在るは二人
この宵に 夢ほのぼのと
花に埋もれ 花よりも清く

(1946年秋、霧ヶ峰にて)
  

Posted by 松田まゆみ at 12:48Comments(0)

2009年03月09日

のぢぎく


「今年の秋も行ってしまう」
「今年の秋も行ってしまう」と
私の肩に落葉が散る
ここに かしこに
のぢぎくの群れ咲いて
たそがれは尾根を浸す
尾根はたそがれに浸る
昔 時が私をおき去った
夢の中に
このような花が咲いていた
うつつに手を触れれば
澄み切る冷たさ
やがて散る
 やがて散る
その耐えがたい白さに
顔をうずめて
去りゆくものを慟哭(どうこく)する
「今年の秋も去ってしまう」
「今年の秋も去ってしまう」と
私の胸に落葉が散る
尾根にはもはや
誰もいぬ

(1946年秋)
  

Posted by 松田まゆみ at 16:17Comments(0)

2009年03月10日

ヨブの柩


真実を言えぬ男
空を見る
ヨブの柩 秋の空
真心を 虚偽と
置換した男
空を見る
ヨブの柩 淡き菱形
 言ってはならぬ
   言ってはならぬ
汚れた男は 汚れた自己を
ヨブの柩に放り込め
あの美しい 星の柩に
幾億年も消えぬ柩へ

(1946年10月18日、霧ヶ峰にて)

  

Posted by 松田まゆみ at 13:33Comments(0)

2009年03月11日


高原は べた一面の
紅葉が昇華し
梢に
ソバカスだらけの
少女達が はしゃぐ
牛は空しく 春を啼き
私は 二本の指で
墓を掘る
昨日死んだ
  こおろぎの墓

(1946年10月26日、美ヶ原にて)
  

Posted by 松田まゆみ at 17:08Comments(0)

2009年03月12日

浅き湖(うみ)


浅き湖(うみ)は笑みをたたえ
午後の陽に光り輝く
黄ばみたる梢そよぎて
重なりて二つの葉落つ
浅き湖は笑みをたたえ
水底はみどりに透き
胸拡げ白き腕のべ
青き眉ひそむ
汝の心我を招き
我が心汝に憩う
そも汝は何を愁い
そも汝は何に憧る
我汝を愛さんと欲し
いと深き絶望の淵に沈む
ああ深淵ぞ我が愛の住家
浅き湖は笑みをたたえ
我が心知らず
我低回の岸辺にありて
去りもあえず
我が命ただひたすらに
秋の日に病葉と散る

(1946年10月26日、蓼の海(たてのうみ)にて)
  

Posted by 松田まゆみ at 13:42Comments(0)

2009年03月13日


何時の日が知らないうちに
心の奥の奥底から
ほんの少しずつ絶間なく
湧き出した泉です
冬は温かく夏は冷たいその水は
止めることとてできません
やがて心は透明な
泉の水で満たされます
心が苦しくなった時
それは夕日の湖に
そっと流してしまうのです
求めてはいけません
与えることもいけないのです
何故だか私は知りません
何故だか考えることでさえ
許されないと思うのです
楽しみもなく悲しまず
苦しみもなく喜ばず
心の奥の奥深く
愛していたいと思うのです

(1946年11月11日)
  

Posted by 松田まゆみ at 08:17Comments(0)

2009年03月19日

造花


冬の陽が
白いヴェールを投げかけ 投げかけ
到達した室の隅
花々は震えていた
空を映さぬ葩(はなびら)よ
死の断片に綴られ
夢を包まず
やがて鮮明にこぼれ行く
そこに塩素の臭いが流れ
花々の確かな共鳴が流れ
一人うつ然とノートする我
与えられた形体の真紅に
全てを忘却するもの
作られしを恨み
憔悴(しょうすい)を知らぬもの
唯々「愛せよ」と 造花

(1946年12月5日)
  

Posted by 松田まゆみ at 10:50Comments(0)

2009年03月26日

ブローチ

   ―友のブローチに寄す―

失われた私のブローチ
今日もこの秋雨に冷たく濡れていることだろう
からまつの落葉に交じって
悲しく湿っているに違いない
艶やかに 淡く白んで
例えば牛乳に卵黄を溶いたように
冷たい石だったが
とうとう 私の胸を離れて
お前は山に帰ってしまった
銀色の金具はもう錆びてしまったろう
去りし日に
お前の冷たさを感じ
私の温もりを与えた
それは今も私の指先に
懐かしく残っている
「哀惜(あいせき)」
青い空と黄金色の日光が
ピチピチはねていた日曜の午後
私のはずんだ心が つい見失ってしまったお前
都大路のショーウィンドから
何気なく私の胸に移されたお前だった
ブローチ
お前はよく私と一緒だった
公園の木の間もる月影を宿した宵
コンサートのハープにふるえていたお前
華やかな語らいの夕にも
お前は異教徒のように 私の胸に一人ぼっちだった
私の心よ
憂愁を湖に投げかけたある日
お前も夕映えの漣(さざなみ)に泣き崩れていた
私の友よ
ああ 永訣の夕
私の最愛の魂の天に召された夕
涙に曇った私の鏡にお前も共に潤んでいたね
山に秋草が枯れ 私の胸元に残った淋しさ
今こそ 私は愛することを知った
私は淋しさを喜びとすることを知ろう
  

Posted by 松田まゆみ at 16:02Comments(0)

2009年03月29日

こぶし


谷奥の流れの岸
真白なこぶしの花の下で
私は駒鳥の声を聞いた
香りに咽(む)せて
人を思った
「あの日……」

十日程して
花は散った
ちょっぴりのぞいた青空に
その日も雲が流れている

「やはり負けた」と思う
「やはり負けぬぞ」と思う
そんな心で生きているのは
辛い

お母さん
北の山の沢辺に
今年も純白なこぶしが咲きます
その根元を水が流れて行きます

そこが
僕の墓場になるでしょう

考えるということは
いけないことでしょうか……
安易に突破できないものが……

お母さん
愛するということは
真実困難なことですね

必死になってみましたが
全ては愛しきれません

たった一つの心を知り
たった一つの愛を知ったものは
何も知ることができません

行かねばならぬ唯一の
永遠の方向を除いては……

北の山の沢辺に
私はこぶしの散る音を聞いた
私の白骨の鳴る音を聞いた

ちょっぴりのぞいた青空に
たしかに雲が流れている
  

Posted by 松田まゆみ at 12:54Comments(0)

2009年04月04日


凍てついた道を
二升のお米と五合の小豆を抱えて
あなたは歩いておられる
かつて想像もしなかった境涯を
あなたは歩いておられる
ほっそりとした影法師

昔……あなたの幸福と苦痛から
私が生まれた頃
あなたの心の豊かさが
あなたのやわらかい乳房を通して
私の幼い心に感じられた

金のビョウブの枕もと
美しいグリムの童話集を
読んで聞かせて下さった頃
私の頬の感覚に
今も残っているのは
色白な ふくよかな
あなたの頬

子供の科学 模型のモーター
優等生のごほうびに
買って下さったオルガンまで
みんなあなたのへそくりが
私に与えてくれたものでした

ああ けれども
あなたと共に幸福な夢を見ていた
少年の最後の日を
あなたは覚えておられるでしょうか

避暑の榛名(はるな)の火口原
われもこうの花のそよぎの中を
あなたと二人でさまよった時
夕日の中に握りしめた
白魚の指がいとしくて
いつまでもいつまでも
そのままそうしていたかった

あの日から間もなく
父は私達から去りました

差し押さえから逃れるため
先祖からのお寺様へ
三つのつづらをあずかってもらうのに
進まぬ足を運んだ黒塀の路でしたね

落葉たく薄煙の中を
門に入って行かれたお母さん
あなたの藍ねずのコートの色の淋しさ

一変した私達の境涯
私のわがままと
あなたのつきない愛が
いつの間にか私を大人にしました

もう人生の夏を過ぎて
静かな秋に入られようとする
そのあなたが
見知らぬ土地の凍てついた道を
私達に食べさせたい一心から
やっと譲ってもらった闇のお米を抱えて
警官の目を気づかっておられる

下町の裕福な商家に育ったあなた
あなたは山がうらめしいという
山の姿を見ていると
涙が出てくると言われる

それでも私の傍らに居るのが
あなたは一番幸福だとおっしゃるのか……

きゅうくつな借間の中で
毎日毎日 生涯の思い出を
胸深く繰り返して
あなたはじっと耐えておられる
精神的な幸福と
あなたも 世間の人も言うけれど
それでは済まない私の気持ち

お母さん
知っているのです
誰よりも僕が知っていると
口には出して言えない僕ですが
誰のためにあなたが生きておられるかを
  

Posted by 松田まゆみ at 19:51Comments(2)

2009年04月15日

明暗


そのことを知ったのは
バスの中だった
登山の疲れかバスの酔いか
貴女は私の膝にうつ伏した

その時から私の心の中で
君は私の友達ではなくなった

最後部のシート
曲がりくねった道
私はゆれる君の頭を
そっと抑えた

あの時から私にとって
君は以前の君でなくなった

私の指先にふれた
君の唇 暖かい呼気
私の心は蒼ざめ
私の胸は波立った

私は求め抑えていたものが
何であったかをその時知った
いずれ知らねばならぬ
そのことを

たまさか窓をよぎる街灯のように
光が私の胸に明暗をつくった
苦しみ 喜び 苛立ち 期待

そのことを知った人の子の
やがて持たねばならぬ数々の文字が
私の心に深い明暗をつくった
  

Posted by 松田まゆみ at 09:53Comments(0)

2009年05月08日

やまぼうし


大きな青白い四辨(べん)の花
何の花か 知らなかった
闇にほのかに浮いていた
私が手折った一輪が
あなたの胸を明るくさせた

けれどもあとで後悔した
夜のうちに捨てればよかったと

それから 日を経るにしたがって
あの青白い燐光を放つ四辨が
次第にわたしの胸に炎え始め
臭覚に感じない香りに
むせかえるばかりの日々……

今は思い出の中に静かに
炎えている 四辨の燐光
植物図鑑にはたしか
山ぼうし と記されていた
  

Posted by 松田まゆみ at 15:47Comments(0)

2009年05月22日

おやすみ


氷った月夜に
礼を言って濡れた手拭いを返した私
貴女の友は湯浴みを終わり
感謝の帰途に着こうとします
新しい年の夜更けの月の光に
貴女の着物が漂います
友よ
新しい年の夜更けの湯浴みに
私の心は幸福を見出しました
私の幸福は苦悩の中にありました
それにしても
月に濡れた貴女は
何て美しいのでしょうか
それは貴女の心です
それは貴女の思想です
汚れた私の心は恥入り
私の思想は苦悶します
新しい年の夜更けの庭で
私は深い感謝を捧げます
誰にも迷惑をかけず
誰にもわずらわされず
限りなく苦しみ
限りなく愛することの幸福を
教えてくれた貴女に
新しい年の夜更けの月明かりに
門口まで送ってくれた貴女の
蒼い眼差し
白い微笑み
清き友よ
私の悲しき友愛を許されよ
東にきらめくオリオンに向かい
貴女の汚れた友は
それでも幸福な帰途に着きます
おやすみ
  

Posted by 松田まゆみ at 15:36Comments(0)

2009年05月29日

愛する人


混迷に孤坐して
生命の点滴に戦慄(せんりつ)する人よ
 そこに月影さし
  そこに月影さし

混迷の孤坐して
永遠の神秘を懐疑する人よ
 そこに月影さし
  そこに月影さし

生命の限りを
燃えて悔いなき
不可解
  

Posted by 松田まゆみ at 13:19Comments(0)

2009年06月11日

愛の悲しみ


鳥も啼かぬ白樺の森の
波立てぬ沼のほとり
梢から絶間なく
たゆたい下る霧雨の
二人をとりまき
  二人を黙らせ
いつまでも濡れていたいと
思う心の
空虚な時間と
幸福な時間との
連続のはかなさ
貴女も知っている
私も知っている
愛することの苦しさを
その苦しさを逃れることの
できぬ掟を
逃れようとは思わない
  逃れようとは思えない
石楠花の固い蕾に
梢より落ちる悲しみ
相寄る二つの魂に
悲しみの
  ふりかかり ふりかかり
人を愛せし罪びとの
悲しみだけが美しいと
  悲しみだけが美しいと……
  

Posted by 松田まゆみ at 15:23Comments(0)

2009年07月08日

階段


昨日も上って下りた
今日も上る
四角い青空を
雲が行く
桐の木の緑
壊れた瓦屋根
窓辺の貧しいゼラニウム
そして空は
海溝になってしまう
この絵巻
逆に廻して
今日も暮れる
私には
この階段の他に
何がある
愛と虚偽と 愛と虚偽と……
  

Posted by 松田まゆみ at 15:51Comments(0)