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2009年01月05日

奥日光初スキー

 バスが戦場ヶ原へ出た頃からやっと眠気が後退していって、どうやら正気に戻ってきたようだった。周りの連中が嘆声を上げたし、雪の高原の陽光がおそろしくまぶしかったからだ。湯元に着いたときはもう一時をまわっていた。日光を早朝出発して、やっとたどり着いた感じだった。
 暖かい車内でぐっすり眠れるはずが、その通りにはいかなかった。車内は確かに寒くはなかったが、床に敷かれたゴザの上に缶詰の鰯(いわし)のように半ば重なっての寝心地は、安眠できるなんてものではなかった。背中は痛いし、隣の奴の体圧が気になるし、まごまごすると太い足がウエストのあたりをドカンとどやしつける。引っ被った毛布はいつの間にか隣の方に移動してゆき、くしゃみで浅い眠りから起こされる。眠ったのか起きていたのか、朦朧(もうろう)としてよくわからなかった。
 バス、ケーブル、バスと乗り換えるたびに、スキーを担いだり降ろしたり。やっと中禅寺湖に着いて、もうこれで湯元までノンストップと安心していたら、中禅寺で別のバスに乗り換えさせられた。大型バスでは湯元まで行けないというのだ。それでも確かに安かった。これだけ乗って一円五銭なのだから。
 バスから降りてなんとなくスキーを担いだ連中の後をふらふらとくっついていったら、皆、南間ホテルに入ってしまった。立派な旅館なので躊躇したが、入り口に冬期割引と書いてある。何でもいいや入っちまえと玄関に入ったら、「お客さん、ご予約ですか?」と聞かれた。
「予約がなければ満員なので」と玄関払いをくった。
「どこかほかに泊まる所くらいあるだろう」と来た道を逆戻りしていたら、前方から歩いてきたオヤジがある。むっとして近寄りがたい面魂(つらだましい)だったが、ほかに聞く人も見えなかったので、呼び止めて泊めてくれるような宿を聞いた。オヤジは、二人の頭から足の下まで見上げ見下ろして、「予約もなしで、おまえさんらお出でたのかね」とあきれ顔だ。
「どこも満員だろうよ。よかったらうちへ泊まるか。学生さんだね。学生さんなら贅沢は言わないだろう。うちは運転手さんやなにかを泊める宿だが・・・・・・」
 何でもよかった。それにどうやら安そうだ。安ければその分よけいに滑れる、と内心ほくそ笑んだのはSも同じだったろう。
「お願いします」と、ほとんど同時に言った。
「そうさね・・・・・・」
 オヤジはしばらく考えて、「三食付一円くらいでいいかね。高いかね」と、聞きもしないのに値段を言った。宿料ってものは、旅館の玄関で決めてから泊まるものだと親父が言っていたのを思い出した。
「どうかね」も「高いかね」もない。こちらは二食付二円は覚悟していたのだ。結構毛だらけ、灰だらけだ。頭の中で素早く七日間は泊まれると勘定した。願ってもない!
 さぞや汚い旅館だろうと思ったら、新築の小ぢんまりした小奇麗な宿だった。オヤジはちっとも旅館の主らしくなかった。言葉遣いも客用のものとはおよそかけ離れて乱暴だった。
「学生さんご馳走はないぜ、よそみたいな。その代わり気楽にしてくれ。怒鳴ってもわめいてもかまわんから」
 こんな調子だった。
 玄関で靴を脱いで驚いた。心配していた通り、靴下が油漬けになっていたからだ。これはいかんと思って靴下を脱ぎはじめたら、見ていたオヤジが言った。
「スリッパの用意がないから、靴下のまま上がってくれ」
 私は、「実は靴に油を塗り過ぎて靴下が汚れている。廊下を汚すと悪いから」と言ったら、オヤジはカラカラと笑った。
「家は建てたばかりで、廊下は磨いてない。油がついているならちょうどいいから、なるべく足を引きずって歩いてくれ。ただ、部屋の中では脱いでくれな」
 チクショウ、ひとを油雑巾だと思ってやがる。しかし私は素直になるべく足を引きずって歩いた。気楽な宿である。


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Posted by 松田まゆみ at 14:31│Comments(0)ボン・スキー
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