第四日

松田まゆみ

2009年01月10日 10:51

 まだ腰が痛いし、「今日はおとなしくゲレンデで滑ろうや」ということで、腰をさすりながら第一ゲレンデに出かけた。ゲレンデの一番上に立って滑っている連中をぼんやり見ていたら、真黒に日焼けしたオッサンに声をかけられた。
「少し教えてやろうか」とにこにこして言う。
 さっきから、テレマーク、クリスチャニア、ジャンプターンと派手に滑りまわっていたオッサンである。無料で教えてくれるつもりらしい。内心「しめた」と思いながら、「お願いします」と言ったら、相手は「ヨーシ」と大きくうなずいた。
 こちらを中学生とみたかこの先生、間もなく言葉がぞんざいになって、だんだんおっかない先生になった。
 あっちへ登れ、こっちへ滑れ、なんだそのへっぴり腰は・・・・・・転んだら尻をひっぱたくぞと、猿回しの猿ではあるまいし、教えるどころか荒っぽいしごき方だった。その日一日、私達はへとへとになるまでしぼられた。
 夕方、「もう結構です。実は昨日第三ゲレンデまで行って、帰りに転びながら降りたのでお尻が痣だらけなんです」と言ったら、「そうか、そいつは悪かったな、君の顔はその時の名誉の負傷か。アッハッハ」と笑った。
「じゃあ、今日はこのくらいにして明日また教えてやろう」
「ウヘッ!」
 私とSは顔を見合わせた。明日、また今日みたいにしごかれるのではたまらないと思った。Sが、「明日は切込刈込湖、山王峠ツアーをやる予定なんです」とうまく逃げを打ったが、どっこい問屋はそうはおろさなかった。
「何、ツアー? アハハハ馬鹿を言え。その腕でツアーをしたら今度は首の骨を折るぞ。止めとけ、止めとけ。ヨーシ、明日ズダルスキーの全制動回転を叩き込んでやる。ツアーはあさってにしろ。命令だ」
 否も応もなかった。大きな声だったし、周りの人は振り返って見るし、ズダルスキーだかドダルスキーだか知らないが、相手が少々悪すぎた。
「ハイ、それではお願いします」と仕方なく言ったら、「ヨーシ、八時にここへ来い。じゃさようなら」と言うや否や、スケート滑降でスーイ、スーイとたちまち姿が見えなくなった。スキーは確かに抜群にうまかった。
「おい明日もか、えらいのに教わっちまったもんだ」
「しょうがねえ、あきらめようや。それより早く帰って寝よう。今晩はお身体大切にしなけりゃ明日がもたねえ」

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