山の挽歌-松田白作品集- › 詩 › のぢぎく
2009年03月09日
のぢぎく
「今年の秋も行ってしまう」
「今年の秋も行ってしまう」と
私の肩に落葉が散る
ここに かしこに
のぢぎくの群れ咲いて
たそがれは尾根を浸す
尾根はたそがれに浸る
昔 時が私をおき去った
夢の中に
このような花が咲いていた
うつつに手を触れれば
澄み切る冷たさ
やがて散る
やがて散る
その耐えがたい白さに
顔をうずめて
去りゆくものを慟哭(どうこく)する
「今年の秋も去ってしまう」
「今年の秋も去ってしまう」と
私の胸に落葉が散る
尾根にはもはや
誰もいぬ
(1946年秋)
Posted by 松田まゆみ at 16:17│Comments(0)
│詩